「懐かしい!」思わず声が出た。京都を訪れたのは、高校の修学旅行以来だった
静かな午前の参道を境内に向かって歩いた。
朝露がキラキラ輝いていた。色とりどりの落葉の絨毯の中を歩いていると、異世界に吸いこまれて行くように感じた。
社会に出て3年。
会社では後輩もできて、 仕事も任されるようになっていた。
と、同時に大学の時からの付き合いの恋人からのプロポ―ズも受けていた。
プロポーズを受けることには抵抗はない。むしろこの上なく幸せな気持ちなのだが、
タイミングが悪い。彼は海外赴任でヨーロッパに行くことになり、ついて来てほしいというとだった。突然の難問に答えを出すことが出来ずにいた。
そんな時に駅で何気なく手に取ったフリーペーパーに、静寂に包まれた異世界が映っていた。写真の世界に吸い込まれるように旅の予定を立てていた。
今回の旅は 友人には誰にも伝えずにやって来ていた。スマートフォンも持たず、ただ透明人間になりたい。そんな思いだった。
しばらくつづいた階段を登りきるとそこは冷っとした空気に包まれた境内が、
誰もいない・・・ 。
静寂と共に 自分を事を染めていた色たちが スーッと消えていく、そんな洗われるような感覚だった。
そして聞こえてくるのは手水舎の水の音だけだった。それは 萎れかけた私のココロに潤いを与えていった。
静かに時間だけが過ぎていく。じっと耳を澄ましてみる。
さわやかな初秋の風が、私の周りを踊りながら過ぎていく。
それはまるで神様との会話をしているようだった。
次第に色付く山々の色 くぐる鳥居の朱の色 、そして木々の隙間から覗く空の色。
数限りない色が透明の自分を色づけていく。
今なら自分の気持ちにも素直に向き合えるような気がした。
さあ 帰って気持ちを伝えよう。今なら正直に気持ちを伝えられそうな気がしていた。
私はイロトリドリの世界をあとにしたのだった。