今回はNovelbrightのwalking with youと言う曲をモチーフにしました。この曲の疾走感と、気持ちをぶつけ合う叫びにも似たボーカル、僕の中には「ライバル」「友情」の言葉が浮かびました。(本家PVに影響されてる?)
勇気を貰う曲です。
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悟は胸ぐらを掴んでいた。
「強引に割り込みやがって!」
左京も言い返す。
「うるせー!お前が!おせーからダロ!」
コーナーのサンドトラップで言い合う二人がいた。
彼は、小嶋悟、F1を目指してカートを始めた。
相手の鈴木左京とは、ビギナークラスからのライバルだ。
悟は今、カートの最高峰クラス「OKクラス」で戦っている。ライバルだった左京は、あるレース中の怪我が原因ですでにドライバーとしては引退している。左京はライバルだった悟に惚れ込んでいた。だから夢を託した…。今では、同じチームでメカニックとして共に戦っている。

今シーズンの全日本選手権で悟は最終戦を残して1位と4ポイント差の2位だ。このシリーズでチャンピオンになれば カテゴリーが上がりF4の舞台に立てる。それは 、ドライバーとして大きく飛躍するチャンスを意味する。今シーズン好調を維持していた悟だが、チャンピオンを目前にして明らかに様子がおかしかった。これまでのレースのようなパフォーマンスがでていない。それは、練習走行でも明らかだった。
ガレージでカートを目の前にして、左京は自分の考えうる全ての経験を持ってセッティングを始めた。ガレージの奥で悟は、誰も寄せ付けないほど集中していた。
もうすぐ予選が始まる。
そんな中、空は暗くなり雨が降り始めた。
「朝の天気や予報では、何も無かったのに…」
でも、降ったものは仕方ない。左京はレインタイヤを装着して、セッティングも雨用のセッティングにやり直した。

悟は雨が嫌いだった。
それは左京も同じだ…。あの日の事が、思い出された。混戦の中、突然左京のカートは制御を失った。スピンしたカートの煽りを受けて弾き飛ばされたのだ。その後は覚えていない。病院で目を覚ました時には、視界は半分になっていた。そして、そのままハンドルを置くことになった。
路面に水が浮いてきた。
急な雨で、どのチームもセッティングに苦労している。しかし悟のカートは、左京のセッティングのおかげで、3番手グリッドからのスタートになった。
「悪くない。」
左京は呟いた。

午後のスタートまでしばらくの時間、左京は悟の話を聞きながら、最終調整に入った。ガレージには、ラジオの天気予報と音楽が交互に流れていた。雨が止む気配は無かった。そんな空を見つめながら、いつも強気な悟は静かだった。
このレースに勝つ事は、悟のこれからにとっての大きな一歩になる。だから何としてもチャンピオンを取らせたい。いや、左京自身もドライバーとしてできなかったリベンジとして、何としてもチャンピオンを取りたかった。
チャンピオンの獲得にはこのレースでの一位は必須条件だ。ウェットのセッティングでは、勝てる確率は低くなる。空とのにらみ合いが続く。時間は刻一刻と進んでいく。そして決断の時になった。
ピットで作業していた左京は、あることに気づいた。意を決して悟に話す。
「ドライでいこう!」
しばらく沈黙が続いた…。左京に何か確信があると察した悟は、その考えに乗ることにした。

作戦が告げられる。
「スタート前には雨は止む。路面が乾くまでは、攻めずに我慢でトップと10秒以内で周回してくれ。路面の乾きはじめたら、乾いた箇所から攻めていく。そうすれば、悟のここ何戦かの好調子と相手の雨セッティングの不利で勝てる。」
というものだった。悟は、雨があがるのが前提の作戦で大きな賭けだったが、左京に掛けてみることにした。
スタート直前に雨粒は小さくなり、そしてシグナルが青になる頃には雨は止んでいた。
スリックタイヤを履いてるのは悟だけだった。路面が濡れている2周目、3周目と序盤は我慢が続く。悟も焦る気持ちを抑えながらハンドルを握った。
レースも中盤にさしかかろうとする頃、かなり青空が見えるようになった。路面が乾き始めたのをサインに悟のラップはトップをたたきだした。最大15秒近くあった1位との差は無くなり、最終ラップに入るとメインストレートで並びかけ1コーナー入口では遂に1位に躍り出た。そのままの勢いでチェッカーフラッグを受ける。
ピットでは左京が重圧から開放され、泣きながら空に手を合わせる。

表彰台でのシャンパンファイトの後、悟は左京の手をガッチリ握り喜びを分かちあった。この優勝で文句なくシリーズチャンピオンになった。
トラックにカートを載せて帰路につく。
そのトラックの中で悟は、なぜ雨が上がるのが分かったのか聞いてみた。
左京が子供の頃、祖父と釣りをしていた時、急に聴いていたラジオがノイズで聞こえなくなった。「雨が降るぞ。」祖父がそう言ったあと、すぐに雨が降ってきた。雨宿りしていると祖父が「そろそろ、止むな…。」と言うと雨があがった。
なぜ分かったのかと祖父に聞いてみると、詳しくは分からないが、ラジオの雑音が酷くなるといつもずぶ濡れになって仕事していたそうだ。小屋で雨宿りしていると雨が上がる頃には決まって雑音は無くなっていたそうだ。
ピットのラジオが綺麗に聞こえるようになったのに気づいた時、その話を思い出した。
左京は、悟が勝ちさえ信じてレースしてくれれば、結果はついてくると思っていた。だからこそ、悟が勝ちを信じれるように「一か八か」だったが、あの作戦を提案したと話た。
悟はにやっと笑った。
「一か八か」―それは、左京がレーサーだった時、リスクを恐れずに勝負を仕掛けるという、スタイルそのものだったからだ。

「次も一緒に行こうな…」
悟は小さく呟く…
「まかせろ、相棒!」
交差点の信号が青に変わる…








