今回は絢香さんの【三日月】をモチーフに書いてみました。
たとえ、どんなに遠くにいても空に浮かぶ月を見上げれば、大事な人と繋いでくれる。そんな不思議で優しい月を描けていたら幸いです。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今年から小学校に通っている彩花は、父が大好きだった。
休みの日は、どこに行くのも父と一緒。
お風呂も、眠る時もずっと一緒。
母にとって彩花は一番の恋敵となっていた。
季節は春から初夏に移るころ、彩花の父は、異動を命じられた。
期間は一年、出発は一ヶ月後。
当然、単身赴任になる。

お風呂に入りながら、
「よく聞いてね、パパは長いお仕事で遠くに行かないといけないんだ。だから少しの間、ママとお風呂に入ってね。」
そう彩花に伝えると、
「いやだ!パパと入るもん!絶対パパだもん!」
それからの彩花は、前にも増してパパから離れなくなった。
そのまま何週間か過ぎた。父は会社からは出発前の準備のために二連休を貰った。
お出かけして、ずっと欲しがっていた大きなぬいぐるみを買ってもらった。そのあとは夕飯もお外で食べた。
帰り際、父は本屋で一冊の絵本を買った。

楽しい時間はあっという間にすぎてしまう。
家に帰ると疲れてしまった彩花は、お風呂に入ると、今日買ってもらったぬいぐるみを大事に抱え眠りについた。
窓の外には三日月が浮かんでいる。直接渡せなかったが父は、月の光に照らされた机の上に今日買った絵本を置いて、彩花の頬にそっとキスをする。
そして静かにドアを閉じた。
次の日の朝、普段どおりに朝ごはんを食べて「いってきます。」
と父が言うと、
「パパ、いってらっしゃい!」
と彩花は言った。
最後まで父は出発の日を知らせられないままにその日を迎えた。
彩花は、いつものとおり学校に行き、夕飯の準備のお手伝い。
それは、いつも通り…。
「パパ遅いなぁ。」
普段なら、パパが帰る時間だが今日は遅い。
彩花は、だんだん心配になってソワソワしてきた。
「パパ、迷子になっちゃったのかなぁ?」
涙でいっぱいになった目で、彩花はママに聞いた。
母は、彩花を抱きしめながら言った。
「ごめんね、パパは長いお仕事に行っちゃったの。今日からママとお風呂に入ろうね。」
それを聞くと、ついに彩花の目からは、大粒の涙がこぼれ始めた。
泣きながらお風呂に入り、
泣きながら布団を被る。
ついに、泣き疲れて彩花は眠りについた。
次の日も、次の日も。

そんなある日、少し落ち着いてきた彩花は、机の上の絵本に気がついた。
それは、月の灯りがリスの兄弟達を怖いフクロウから守るそんな話だった。それを読んでいた彩花は最後のページに挟んである手紙を見つけた。
「あっ、お手紙だ。ママ、読んで。」
それは父が、彩花に向けた手紙であった。その手紙には、
『彩花へ、
パパは少しの間、お仕事で帰れませんそれは、パパの助けを待ってくれている人がいるからです。だから彩花もママを助けてあげて欲しい。帰るまでママと待っていてね。もし夜に寂しくなったら ベランダから月を上げて見てごらん。その月はパパも見上げてる月だから、ちゃんとパパと彩花は繋がっているんだよ。』
読んでもらった手紙を大事に抱えながら、彩花は窓の外を見た。綺麗な満月が浮かんでいる。

「あのお月様をパパも見てるんだよね!」
「そうね、今日は綺麗だからきっと見上げてるわね。」
彩花は月に話しかける。
「パパが帰ってくるまで、彩花お利口さんに待ってるよ、ママのお手伝いもするよ。お仕事頑張ってね。彩花ね、パパがそばにいなくても大丈夫だよ!お月様を見れば、パパに会えるもん!」
母は彩花の頭を優しく撫でながら、
「そうね。彩花のパパへの想いも、パパの彩花への想いも、ちゃんとあのお月様が届けてくれてるよ。」
彩花はこくんと頷くと、ぬいぐるみを抱えたまま、満月に向かってそっと手を振った。
その夜、彩花は久しぶりに、涙を流さずに眠りについた。
窓の外では、まあるい月が、遠く離れた父と娘を、静かに繋いでいた。
そこには、離れていても感じる温かさがあった。








