やっさんの気持ち

いろいろやって行きます

RADIO

なんとなく眠れなくて、時計に目をやると午前1時になろうとしていた。枕元においたままの古いラジオが目に入った。

スイッチを入れてみるとイヤホンから流れてきたのは受験勉強しながら聞いていたあの番組だった。

「この番組、まだやってるんだ」

ふと、予備校時代の事を思い出した。

誰にも言えないほんの小さなエピソードを。

 

予備校時代に同じコースで気になっていた女の子が、友達と昨日の番組の話で盛り上がっているのを遠目で眺めていた 。

 

笑顔のとっても素敵な子だった。

だけど 名前も知らないどこの学校出身で どこの大学を目指しているのかも知らない。そんな事は知りようがなかった。

浮かない浪人生の僕には話しかけることなどできなかった。

 

どうすれば彼女に話しかけられるのか、

そんなことばかり考えていた。

 

番組を聞く度に、彼女のラジオのチューニングは合っている。ならば  電波に乗ることが出来たらあの子の元までも行けるんじゃないか?と、SFチックに考えた。            

 

懐かしくそんな事を考えていると

「そんな事をしたらただのストーカーじゃないか?」

昔の自分にツッコミを入れていた。


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エンディングテーマが流れてきた。

時計は深夜3時だ。

泥棒と猫以外は出歩いていない、そんな時間だった。

 

当然もう聞いてはいないのだろうけど

名前も知らない彼女の笑顔を思い出しながらそっとイヤホンを置いた。


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Still love her

最終便の終わった夜のフェリー乗り場で 

今夜もひとりで僕はギター片手に路上で歌い始めた。

 

僕は今、軽音サークルでバンドをやっている。

が、しかし人前ではまだ演奏などはしたことがない。

そんな中今年秋の学園祭で コンテストに出ることになった。

今年の出演バンドが少なくて 運営直々にオファーが来たのだ。

 

バンドの中で一番声が大きいということで一応、ギターボーカルをやっている。

が、しかし、あまり人前に出るのは得意な方ではなかったので、

バンド練習とは別に度胸をつけるために路上で歌いを始めた。

 

とはいえ今日は 平日の夜である。人通りなどは殆ど無い。

むしろ  人通りの少ないからこの場所をチョイスしていた。

聴衆は誰もいない 度胸をつけるどころかただの発声練習だった。

 

バンドでの練習もあり毎日はできなかった。

しかし、何度かいつもの場所で歌っていると 

驚くことに立ち止まってくれる人がちらほらと、

「物好きもいるんだなぁ」と感心しているた。

 

しばらくして気づいたのだが

一人だけ毎回聞きに来てくれる女の子がいた。

その子は ぱっと見は高校生くらいだった。

 

お客さん(?)はその子だけという日も・・

話しかけた事こそ無かったが、歌う曲を最後まで聞いてくれるお客様の鏡のような女の子だった。

 

ついに明日が本番いうことで今日は最終調整のつもりで いつものように歌っていた。

足を止めてくれていた数人の人にペコリと長めのお辞儀をして顔を上げた。

目の前には  缶コーヒーを差し出す手が、

「がんばって」一言言い残して彼女は帰って行った。

 

路上で歌っていたおかげで コンテストでは緊張することなく

普段通りパフォーマンスすることが出来た。

そしてなんと賞をもらうこともできた。

 

もう路上で歌う理由はなくなった。

本番も終わり数日が過ぎた頃、僕はギター片手にまたあの場所に立っていた。

特になにか目標があったわけではなかったが、

また彼女が聴きに来てくれるような気がしていたからだ。

 

そんな時、以前より温めていたオリジナルの曲が完成した。

と、言っても どこかで聞き覚えのあるフレーズを繋ぎ合わせたようなものたが、

「まぁ初めてなので しょうがないでしょう」と妥協した。

 

あれから彼女は見ていない。

人もまばらなフェリー乗り場で僕は歌っていた。

自分の作った曲 オリジナルの自分だけの曲を。

それは、ちょっとしたアーティスト気分だった。

 

だけどそんな自己満足だけではない

彼女に聞いて欲しいという気持ちもあった。

 

今になると想う。

小さな目標だったけど,

叶える力をくれたのは彼女だと思う。

だからこそ、

だからこそ歌っている。

僕が間違いなく、この歌を本当に聞かせたかったのは彼女だから。


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Kick off

赤とんぼの舞う夏の夕暮れ

その日私は、上司にこっぴどく叱られ

重苦しい空気をまとったまま家路をとぼとぼと歩いてい

 

私はユカ。普通の会社で働く普通のOL

今の会社には3年前に入社し23歳

 

通い慣れた帰り道。

いつもはただの風景に過ぎないグラウンドになにげなく目を向けると

「ピッピ―ッ!」

ホイッスルとともに走りな回る子どもたちが、

 

ラグビー?」

ルールはよくわからないけど 

なんとなく懐かしくなり しばらく眺めていた。

 私は高校時代を思い出していた。 

 

 

それは、高校に入って初めての夏休みが終わりに近づいたろだった。

その日の部活が終わり、残りの宿題を仕上げるために急いで自転車を走らせていた。

校門から坂を下ったグラウンドではラグビー部が秋の新人戦に向けて練習していた。

 家に着いた私は夏休みの課題をするためにノートを開いた。

しかし、残りページが少なくなっていたので近くのコンビニまでノートを買いに行った。

 

ノートを手に取り急いでレジに行くと先に頬に絆創膏を貼った制服男子が先に並んでいた。

隣に住んでる彼の名前はサトシである。

 サトシとは同じ幼稚園に通い 小学校、中学校そして高校まで同じ学校にっ通っていた

いわゆる幼馴染だ。小さい頃はひ弱で子分のようなSだったが、中学の頃からラグビーをはじめて高校の今もラグビー部である。

 

今は教室が離れているのであまり話すことはないのだが、この状況では声をかけないのは不自然と思い声をかけた。

「うっす。」

 買い物を済まして二人で自転車置き場に向った。彼は片手に菓子パンとコーヒー牛乳を持っていた。彼曰く夕飯まで我慢できないらしい。そこで 久しぶりに話をした。

 

もう少し頑張れば新人戦で背番号をもらえる事、

夏休みの課題には全く手を付けていない事、

頬の絆創膏は先輩マネジャーに貼ってもらった事、

 

そんな他愛のないことをキラキラした瞳で話してくれた。大学で上京してからはサトシとは会うことはなかった。

 

 

そんなことを思い出しながらグラウンドの子どもたちを見ていたら

懐かしさとともに目の前のことに一生懸命になっていたサトシのキラキラした瞳を思い出した。

 

なぜならその時に鳴り響いたホイッスルが

今日のノーサイドと明日へのキックオフを告げているように聞こえたからだ。


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