やっさんの気持ち

いろいろやって行きます

すき

夏休みが始まり 8月になろうとしていた。

駅の待合室で一時間に数本の列車を待っていた。

私は列車を待ちながら、話すことを色々考えていた。

 

私は、地元の高校に通う高校2年生。

今日は、幼なじみが帰ってくるのを駅まで迎えに来ていた。

名前はタクヤ、2つ年上である。親同士が同級生ということもあり、 

小さな頃から家族のような付き合いをしていた。

今年の春からは東京の大学に進学して一人暮らしを始めていた。

学校が夏休みなので帰省してきたのである。 

 

今夜はタクヤの家族と私の家族でバーベキューをすることになったので

迎えに行くように母親に促されて駅まで来ていた。

少し早く着いたようでまだ30分ほど時間があった。

 

扇風機の風が心地よく流れていく、

 

「待ち遠しい」

そんな感情があるわけないと、自分には言い聞かせていたのだが

本当は、タクヤの顔が浮かんで仕方なかった。

 

たかが3ヶ月だけなのに・・・

こんなに長い期間 顔を見なかったことはなかった。

 

話したいことはあるのだが、どれから話していいか迷っていた。

それどころか うまくが話せるかかも危ういところだった。

 

大きな掛け時計に目をやると長い針は30度だけしか動いていない。

何気なく東京方面に向う線路の先に視線をやると、ただゆらゆらと陽炎が揺れていた。

 

東京は怖い街なのか

ひとり暮らしは大変なのか 

芸能人とすれ違うことはあるのか

実は、東京の大学に進学しようと考えているので

色々聞いてみたいことがあった。

それらを「話す事リスト」に書き込んでいった。

 

やがて 信号機の向う側に

ゆっくりと 電車の影が見えてきた

 

しばらくして

少し照れくさそうに改札を出てくる彼を

私がすこし照れくさそうに言った

 

「おかえり」


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supernova

着信音に目を覚ました

昨日から少し熱っぽく倦怠感に包まれていた

やっとの思いでスマートフォンに手が届いた



母親からの「週刊 元気かい?」コール

だった

「調子はどう?ご飯食べてるの?飲みすぎてない?」

芸能レポーターばりの勢いで質問が飛んでくる


いつものように  のらりくらりと質問を受け流し

「じゃあ切るよ」と電話を切り上げて再び眠った


そして次の朝 

目が覚めると昨日より熱も上がり 

2割増しの倦怠感に見舞われていた

今日は 学校もバイトにも行けそうにない


こうやって一人暮らしで寝込んでしまうとまるで世界から隔絶されたかのようだった


「ピンポーン!」

なにかがやって来た


Uberもアマゾンも頼んだ覚えは無い


玄関まで這って行くと

インターホン越しには

母親が立っていた


鍵を開けると

大きなレジ袋を2つ抱えて

そそくさと部屋に入ってきた

レジ袋には数日分の食料と水が入っていた


そのまま何も言わずに小さなキッチンで何かを作り始めた


正直、昨日から何も食べる気にならず そろそろ空腹も限界近かった

卵入りのお粥だった

それを食べている間に

部屋の掃除とたまった洗濯を片付けて颯爽と帰っていった


帰り際、なんでわかったのかを聞くと、

昨日の会話の途中の咳払いが気になったらしい


さすが母親と感心した


見送ったあとに 「ありがとう」のひとことも言えていなかった事が

棘のように心にチクッとしていた


一人暮らしをしていなかったら 

「当然」の如く母親のおせっかいを受け取っていたはずだけど


親元を離れてみると「当然」は「当然」ではなかった事に気づいた


たとえ 近くにいなくても

母の中には確かに「存在」している


そしてその「存在」があるからこそ

自分が生かされている


ふとそんな事を考えていたら

着信履歴の中の最新の着信に

リダイヤルしていた


「次の休みは 帰るから」

それだけ伝えた



次の休みの日には家に帰ろうと思った


「ありがとう」じゃ足りない「ありがとう」を伝えるために

 


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