やっさんの気持ち

いろいろやって行きます

君の望み、君の願い

小さな頃から絵を書くことが好きだった僕は中学校 高校と美術部に在籍していた。今年の春から晴れて美術大学に入学することになった。

いつかは個展を開けたらと思っていた僕は、縁あって商店街の小さな画廊で個展を開く運びになった。卒業までに個展ができるとは思っていなかったので、なんとか成功させたい思いが強かった。



大学で今までに制作した作品数点と、新しく数点の作品を制作することにした。毎日起きている時間は、ほとんどアトリエにこもる日々だった。最近はキャンパスに姿を見せることもなくなり、珍しく見かけても居眠りばかりだった。マキはそんなカズトが気になっていた。マキは高校時代の美術部の後輩でたまたまこ美大に入学で再開したのだ。カズトに人知れず心を寄せていた彼女は、半ば押しかけ女房のようにカズトのそばにいた。個展に没頭しているカズトを見かねて色々世話をいていた。不思議なことに人付き合いの良くないカズトだが、マキのことだけは受け入れていた。何も食べることなくキャンバスの前に座り続けるカズトを見かねていつもマキは食事を用意していた。

 

最初はいくら遅い時間になっても食べていたのだが、個展まで一ヶ月を切るくらいになると、食べずにアトリエに篭もりきりになることも増えていた。マキがいつものように「食べてね」アトリエへの扉の前に食事をそっと置いた。扉の向こうからは何も反応がない。「ここにおいておくから・・・」

 

数時間後扉の前の食事はそのまま置かれていた。マキにはそんなカズトを、ただただ見守ることしかできなかった。「私もう帰るね」無力感を感じたマキはそっとカズトの家を出ていった。「出来た」暫してカズトは最後の作品を完成させた。マキに伝えるべく2日ぶりにアトリエの扉を開けた。だがもうそこにはマキの姿はなかった。テーブルの上にはぬるくなったコーヒーとサンドイッチが置かれていた。マキが出ていったことを悟ったカズトは、コーヒーの僅かなぬくもりを感じてすぐに後を追った。家の周りの心当たりには、行ってみた。だが、マキの姿はなかった。

 

探し続けて夕方になり「あと思いつくところは・・・」

マキとよくデッサンした灯台の見える海辺の公園に行ってみた。夕日の沈む砂浜に一人佇むマキを見つけた。「マキ!」そう呼ぶと今にも泣き出しそうな顔して抱きついてきた。「できたよ」そう告げたカズトは彼女の頬に優しく触れていた。

最後に仕上げた絵には光に向かって登っていく天使たちが優しい微笑みのマリアを守るかのように取り囲んでいた。そしてマリアは何処となくマキに似ていた。カズト自身も本当は分かっているのだった。自分が本当に守りたいもの そして本当に願い望むものを、

そして彼はもう決めている今度は、自分がきっと彼女を助けに行くことを 。

 


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