なんとなく眠れなくて、時計に目をやると午前1時になろうとしていた。枕元においたままの古いラジオが目に入った。
スイッチを入れてみるとイヤホンから流れてきたのは受験勉強しながら聞いていたあの番組だった。
「この番組、まだやってるんだ」
ふと、予備校時代の事を思い出した。
誰にも言えないほんの小さなエピソードを。
予備校時代に同じコースで気になっていた女の子が、友達と昨日の番組の話で盛り上がっているのを遠目で眺めていた 。
笑顔のとっても素敵な子だった。
だけど 名前も知らないどこの学校出身で どこの大学を目指しているのかも知らない。そんな事は知りようがなかった。
浮かない浪人生の僕には話しかけることなどできなかった。
どうすれば彼女に話しかけられるのか、
そんなことばかり考えていた。
番組を聞く度に、彼女のラジオのチューニングは合っている。ならば 電波に乗ることが出来たらあの子の元までも行けるんじゃないか?と、SFチックに考えた。
懐かしくそんな事を考えていると
「そんな事をしたらただのストーカーじゃないか?」
昔の自分にツッコミを入れていた。
エンディングテーマが流れてきた。
時計は深夜3時だ。
泥棒と猫以外は出歩いていない、そんな時間だった。
当然もう聞いてはいないのだろうけど
名前も知らない彼女の笑顔を思い出しながらそっとイヤホンを置いた。