着信音に目を覚ました
昨日から少し熱っぽく倦怠感に包まれていた
やっとの思いでスマートフォンに手が届いた
母親からの「週刊 元気かい?」コール
だった
「調子はどう?ご飯食べてるの?飲みすぎてない?」
芸能レポーターばりの勢いで質問が飛んでくる
いつものように のらりくらりと質問を受け流し
「じゃあ切るよ」と電話を切り上げて再び眠った
そして次の朝
目が覚めると昨日より熱も上がり
2割増しの倦怠感に見舞われていた
今日は 学校もバイトにも行けそうにない
こうやって一人暮らしで寝込んでしまうとまるで世界から隔絶されたかのようだった
「ピンポーン!」
なにかがやって来た
Uberもアマゾンも頼んだ覚えは無い
玄関まで這って行くと
インターホン越しには
母親が立っていた
鍵を開けると
大きなレジ袋を2つ抱えて
そそくさと部屋に入ってきた
レジ袋には数日分の食料と水が入っていた
そのまま何も言わずに小さなキッチンで何かを作り始めた
正直、昨日から何も食べる気にならず そろそろ空腹も限界近かった
卵入りのお粥だった
それを食べている間に
部屋の掃除とたまった洗濯を片付けて颯爽と帰っていった
帰り際、なんでわかったのかを聞くと、
昨日の会話の途中の咳払いが気になったらしい
さすが母親と感心した
見送ったあとに 「ありがとう」のひとことも言えていなかった事が
棘のように心にチクッとしていた
一人暮らしをしていなかったら
「当然」の如く母親のおせっかいを受け取っていたはずだけど
親元を離れてみると「当然」は「当然」ではなかった事に気づいた
たとえ 近くにいなくても
母の中には確かに「存在」している
そしてその「存在」があるからこそ
自分が生かされている
ふとそんな事を考えていたら
着信履歴の中の最新の着信に
リダイヤルしていた
「次の休みは 帰るから」
それだけ伝えた
次の休みの日には家に帰ろうと思った
「ありがとう」じゃ足りない「ありがとう」を伝えるために