やっさんの気持ち

いろいろやって行きます

21gの意味

毎日が退屈な日々だった。昼間は適当に大学に通い 夜は連れと遊んで空が白んで来たら眠る。そんな毎日を過ごし今日が何曜日かも危うい様な生活を繰り広げていた。

「将来には何をしたいか?」なんて考えたこともない。周りの奴らは就職活動をはじめていた。遊びに行く仲間も次第に減ってた。

 

突然それは、やってきた


テーブルのスマホが鳴った。見てみるとカズヤからの着信だった。普段の遊びの連絡ならLINEで済ましているのに、それは通話の着信音だった。出てみるとその声はカズヤではなかった。瞬間的に不穏な空気を感じた。受話器の向こうからはカズヤの彼女の声。それも涙声で途切れ途切れに話し始めた。

彼女の家にバイクで行く途中に、急に飛び出してきた子猫を避けようとしたがバランスを崩しそのまま路側帯に激突したらしい。病院に運ばれたときにはすでに意識はなく、暫くして息を引き取ったそうだ。その話を聞いた後どうしたのかは覚えていない。

 

カズヤとは高校からの親友で、俺と違ってしっかりした奴だった。カズヤは大学に通いながらもいくつもの資格を取ってしまうような隙のない性格だった。「早く就活しろよ」が、最近の口癖だった。そんなこと言うのは親かカズヤくらいなものだった。同じバイク雑誌を読んでいたことがきっかけで、よく遊ぶようになった。そして、競うように教習所に通い免許を取った。目的地を決めないままのツーリングにもよく行ったものだった。

 

気がつくと病院のベッドの傍らにボーッと立ちすくんでいた。純白のベッドにカズヤは横たわっていた。カズヤの体は確かに存在するのに彼の魂の存在は感じない。そんな時空のねじ曲がったような感覚にとらわれて、ただ目の前の光景を見つめることしかできなかった。

そしてどれほどの時間が経っただろう。ご両親に促されカズヤのベッドから離れた。去り際にご両親に頼んでカズヤの形見に何か欲しいとお願いした。渡されたのは、病院に運ばれた時にも付けていた傷だらけのペンダントだった。事故の際にチェーンは切れてしまいペンダントトップだけになっていたが、生まれたてのひな鳥を掴むように大事に手のひらに包みこんだ。ご両親にお礼を言ってから俺は家路についた。俺より何倍も泣きたいはずなのに気を使わせてしまったことを後悔した。

 

 

家に帰って もらったペンダントを眺めながらこんなことを思い出していた。人は亡くなる前と 亡くなった後では体重に違いがあるらしい。これはある医師が何人かを調べた結果、亡くなった前後で21gの違いがあると言うことだ。理由ははっきりしないが軽くなるのだ。そこから魂の重さが21gとされているのだそうだ。そしてカズヤのペンダントを握りながら、漠然とこの位の重さだろうなと思った。実際には量っていないのだが、勝手にこの中にカズヤの存在の全てが詰まっている。そんなふうに考えていた。

 

 

お葬式も終わり僕は普段のマンネリに戻りそうになった。昼過ぎに起きると机の上においていたペンダントに目が止まった。「まだそんなことをしているのか」大きなため息をつくカズヤの姿がそこにはあった。そう言われた気がした。ペンダントの中に確かにカズヤの存在を見たのである。気がつくとペンダントをギュッと握りしめていた。

 

「軽いよな・・・」そうつぶやいた。


「俺は俺の21gの中にどれだけ意味を作れるのだろうか。そしてどれだけの輝く瞬間をこめられるだろうか。」自分で自分に問いかけていた。もちろん今すぐには変えられないのかもしれない。だが、少しずつでも前向きに生きてみようと思った。いつ閉じるかわからない人生で生きる意味を知ることが出来るのだろうか、そして自分の21gに意味を持たせるために。

それがカズヤの21gに対する俺なりの「ありがとう」の示し方だから。


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君の望み、君の願い

小さな頃から絵を書くことが好きだった僕は中学校 高校と美術部に在籍していた。今年の春から晴れて美術大学に入学することになった。

いつかは個展を開けたらと思っていた僕は、縁あって商店街の小さな画廊で個展を開く運びになった。卒業までに個展ができるとは思っていなかったので、なんとか成功させたい思いが強かった。



大学で今までに制作した作品数点と、新しく数点の作品を制作することにした。毎日起きている時間は、ほとんどアトリエにこもる日々だった。最近はキャンパスに姿を見せることもなくなり、珍しく見かけても居眠りばかりだった。マキはそんなカズトが気になっていた。マキは高校時代の美術部の後輩でたまたまこ美大に入学で再開したのだ。カズトに人知れず心を寄せていた彼女は、半ば押しかけ女房のようにカズトのそばにいた。個展に没頭しているカズトを見かねて色々世話をいていた。不思議なことに人付き合いの良くないカズトだが、マキのことだけは受け入れていた。何も食べることなくキャンバスの前に座り続けるカズトを見かねていつもマキは食事を用意していた。

 

最初はいくら遅い時間になっても食べていたのだが、個展まで一ヶ月を切るくらいになると、食べずにアトリエに篭もりきりになることも増えていた。マキがいつものように「食べてね」アトリエへの扉の前に食事をそっと置いた。扉の向こうからは何も反応がない。「ここにおいておくから・・・」

 

数時間後扉の前の食事はそのまま置かれていた。マキにはそんなカズトを、ただただ見守ることしかできなかった。「私もう帰るね」無力感を感じたマキはそっとカズトの家を出ていった。「出来た」暫してカズトは最後の作品を完成させた。マキに伝えるべく2日ぶりにアトリエの扉を開けた。だがもうそこにはマキの姿はなかった。テーブルの上にはぬるくなったコーヒーとサンドイッチが置かれていた。マキが出ていったことを悟ったカズトは、コーヒーの僅かなぬくもりを感じてすぐに後を追った。家の周りの心当たりには、行ってみた。だが、マキの姿はなかった。

 

探し続けて夕方になり「あと思いつくところは・・・」

マキとよくデッサンした灯台の見える海辺の公園に行ってみた。夕日の沈む砂浜に一人佇むマキを見つけた。「マキ!」そう呼ぶと今にも泣き出しそうな顔して抱きついてきた。「できたよ」そう告げたカズトは彼女の頬に優しく触れていた。

最後に仕上げた絵には光に向かって登っていく天使たちが優しい微笑みのマリアを守るかのように取り囲んでいた。そしてマリアは何処となくマキに似ていた。カズト自身も本当は分かっているのだった。自分が本当に守りたいもの そして本当に願い望むものを、

そして彼はもう決めている今度は、自分がきっと彼女を助けに行くことを 。

 


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イロトリドリノセカイ

「懐かしい!」思わず声が出た。京都を訪れたのは、高校の修学旅行以来だった

静かな午前の参道を境内に向かって歩いた。

朝露がキラキラ輝いていた。色とりどりの落葉の絨毯の中を歩いていると、異世界に吸いこまれて行くように感じた。木漏れ日が光の帯を描く二の鳥居へと続く参道

社会に出て3年。

会社では後輩もできて、 仕事も任されるようになっていた。

と、同時に大学の時からの付き合いの恋人からのプロポ―ズも受けていた。

プロポーズを受けることには抵抗はない。むしろこの上なく幸せな気持ちなのだが、

タイミングが悪い。彼は海外赴任でヨーロッパに行くことになり、ついて来てほしいというとだった。突然の難問に答えを出すことが出来ずにいた。

 

そんな時に駅で何気なく手に取ったフリーペーパーに、静寂に包まれた異世界が映っていた。写真の世界に吸い込まれるように旅の予定を立てていた。

 

今回の旅は 友人には誰にも伝えずにやって来ていた。スマートフォンも持たず、ただ透明人間になりたい。そんな思いだった。

 

しばらくつづいた階段を登りきるとそこは冷っとした空気に包まれた境内が、



誰もいない・・・ 。

静寂と共に 自分を事を染めていた色たちが スーッと消えていく、そんな洗われるような感覚だった。

 

そして聞こえてくるのは手水舎の水の音だけだった。それは 萎れかけた私のココロに潤いを与えていった。

 

静かに時間だけが過ぎていく。じっと耳を澄ましてみる。

さわやかな初秋の風が、私の周りを踊りながら過ぎていく。

それはまるで神様との会話をしているようだった。

次第に色付く山々の色 くぐる鳥居の朱の色 、そして木々の隙間から覗く空の色。 

数限りない色が透明の自分を色づけていく。千本鳥居、奥社へと続く鳥居の参道の起点付近

今なら自分の気持ちにも素直に向き合えるような気がした。

さあ 帰って気持ちを伝えよう。今なら正直に気持ちを伝えられそうな気がしていた。

私はイロトリドリの世界をあとにしたのだった。


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